頚椎脊柱管狭窄症

KEITSUISEKICYUUKANKYOUSAKUSHOU

頚椎脊柱管狭窄症とは

神経の本幹である脊髄の通るトンネル(脊柱管:せきちゅうかん)が狭く(狭窄:きょうさく)なる病気です。症状と診断は頚椎症性脊髄症のページで詳しく説明してありますので、是非参照してください。

原因には大きく分けて二つあります。一つは生まれつきトンネルが狭いもの、もう一つは頚椎症性脊髄症のページで説明したように、経年変化によってトンネルが狭くなるものです。ほとんどの症例ではこの二つの要素が重なっています。

下の頚椎MRIは正常の脊柱管を示しています。このMRIと二人の患者さんのMRIとを見比べれば一目瞭然ですが、二人とも頚椎脊柱管は生まれつき狭くできていました。

白石脊椎クリニック前例の頚椎脊柱管狭窄症画像01

日本人を含め東南アジア人種(黄色人種)には欧米人種(白人種)に比べて首の脊柱管が生まれつき狭い人が多いことがわかっています。診断には頚椎を真横から見た単純レントゲン写真で脊柱管の前後の幅、つまり下の図で赤線の長さを測ります。この長さが13mm以下であれば脊柱管狭窄症と診断されます。

頚椎脊柱管狭窄症画像02

生まれつき狭い脊柱管に経年変化が加われば、さらに脊柱管は狭くなります。もともと脊柱管の広い欧米人に比べ、日本人には年を取ると頚椎脊柱管狭窄症になる人がとても多いのです。また、生まれつき狭窄の強い人では比較的若いうちに症状が出る人もいます。私のクリニックを受診する人の中には、30代の若さで日常生活に支障がでるほどの症状が出た患者さんも珍しくありません。

経年変化によってどのように脊柱管が狭くなるのかを下の図にMRIとイラストを対比させてご説明します。MRIの黄色の矢印をご覧ください。変性した椎間板が骨棘(こつきょく)という骨のとげと一緒に出っ張って脊髄を前から押しています。赤い線は変性して厚ぼったくなった靭帯を示しています。これは脊髄を後ろから押しています。こうして脊髄が強く圧迫されぺしゃんこに変形してしまうのです。

頚椎症画像03

 

頚椎脊柱管狭窄症を30年以上治療してきた私がつねづね残念に思うこと

それは、頚椎の脊柱管が狭いことがもう少し前にわかっていれば、もっと治療の効果が高かったはずであろう患者さんがとても多いことです。その中で最も悲惨な例は、スポーツの外傷、たとえばスキーやスノボーで転倒し、直後から手足がほとんど動かなくなったためMRI検査をしてみたら、頚椎の脊柱管が非常に狭かったことがその時初めてわかった、というような例です。脊柱管が狭いと、普通の人であれば何も起こらないような程度の衝撃でも脊髄が損傷されやすいのです。脊柱管が狭い中高年であれば、つまずいて転んだ、頭をぶつけたといった、程度の軽い衝撃でも手足が麻痺してしまうことがあります。ご高齢の方の中には、脊髄が長い年月にわたり狭い脊柱管の中で圧迫され続けていることをまったく知らず、軽く手がしびれるくらいの症状しかなかったので放っておいたら、ある時期からはっきりした外傷もないのに手足の麻痺が出てきて急激に悪化することもあります。

 

外傷によって脊髄が損傷された例や症状が非常に重くなってから治療を受けた例には治療の効果があまり期待できません。どんな病気でも早期発見早期治療が鉄則なのです。わたしが脊椎ドックをすすめる理由はまさにここにあります。特に生まれつき狭い頚椎脊柱管は20歳を過ぎれば単純レントゲン写真やMRIで容易に見つけることができます。本人が頚椎脊柱管が狭いことを知っていれば、危険なスポーツは避けたかもしれません。経年変化によってさらに脊柱管が狭くなることを教えられていたら、定期的な経過観察によって病気の初期に治療を開始していたかもしれません。日本人に頚椎脊柱管狭窄症が多いことを知っていれば、たとえ症状が軽くても脊椎専門医を受診していたかもしれません。そのおかげで、このまま放っておけばいずれ症状が悪化する可能性が高いことを告げられたかもしれません。頚椎脊柱管の狭い人が日常生活で注意すべき点をアドバイスされていれば、転倒などによる脊髄損傷を回避できたかもしれません。

 

56歳男性の症例

交通事故による頸部脊柱管狭窄症。
赤丸の中をご覧ください。術前は脊髄が圧迫されて砂時計のようにくびれています。
術後は脊髄の圧迫が完全に除去されて、そのくびれもなくなりました。

I様術前MRI

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