筋肉を温存する手術について

OPERATION

画期的な筋肉を温存する手術法

四肢の手術では、隣り合った筋肉と筋肉の間から進入し、筋肉および、その中を通る大事な神経血管を傷つけずに骨に到達する方法が何十年も前から実践されていますが、頚椎後方手術にはそのような歴史がなく、今でも頚椎の骨に付着する筋肉はことごとく骨から切り離して手術が行われています。

私が脊椎外科医として独り立ちして間もない頃、従来の頚椎手術を受けた後、長期にわたって頑固な首、肩、背中の痛みや、首が固くなって動かない、あるいは首が前に倒れて前が向きにくい、などの後遺症を持つ患者さんがとても多いことに悩んでおりました。また、その原因が手術によって首の筋肉が大きく損傷されることにあることも見当がついていました。これまでの頚椎外科の歴史では、首の後ろの筋肉をことごとく骨から切り離さなければ手術ができなかったからです。問題を解決するには、筋肉を損傷しない新しい首の手術法を考え出さねばならなかったのです。その後、解剖学書と脊椎の模型を見比べる日々が続きました。そんなある日、「筋肉と筋肉の間にはだれにでも隙間がある」ことに思い至ったのです。そして、1999年に頚椎外科の歴史では初めて、隣り合った筋肉と筋肉の隙間を広げるだけで、筋肉自体を傷つけずに手術する画期的な筋肉を温存する手術を開発するに至りました。以来、アメリカ・ヨーロッパ・アジアなど各国で講演や技術指導を行い、一人でも多くの患者さんに痛みが少なく、首の機能が損なわれない手術が受けられるように努めてまいりました。

世界では「Shiraishi’s muscle-sparing technique」と呼ばれ、脊椎手術の新たなスタンダードとして広がりを見せています。

この術式によって、頚椎であれば、手術の翌朝からカラーなどの首の装具をつけずに起立、歩行ができます。傷の痛みが少なく、回復も早いので、超早期離床、退院、社会復帰が実現されます。