頚椎症性神経根症

KEITSUISHOUSEISINKEIKONSHOU

どんな病気?

頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)は壮年の人に多い首の病気です。この病気を説明するに当たり、頚椎症とは何か、神経根とは何かを理解していただく必要があります。

まず頚椎症ですが、これは頭を支えたり動かしたりする負担が首の骨(頚椎)にかかり続けることで起こる変化です。経年変化とも言えます。どんな変化かというと、椎間板という背骨の一つ一つの骨(椎骨)をつなげ、その間に挟まってクッションの役目をする組織が、摩耗して水気を失い、上下の厚みがなくなる状態(椎間板変性)が最初に起こります。変性した椎間板は厚みを失った分だけ周囲にふくらみます。椎間板が変性すると、椎骨のへりに餃子の羽根、あるいは鳥のくちばしのような骨の出っ張り(骨棘:こつきょく)も現れます。このような変化によって神経の通り道が狭くなると、そこを通る神経が挟まれてしまいます。

神経根とは、神経の本幹である脊髄(せきずい)から左右に枝分かれする細い神経のことです。首の神経根は左右にそれぞれ8本ずつあります。この神経根は脊髄から別れて椎間孔(ついかんこう)という首の骨の両側にある細いトンネルを通って首の骨から出て行きます。

頚椎症性神経根症とは、椎間孔が上に述べた首の骨の経年変化(頚椎症)によって狭くなったため、神経根がそこで挟み付けられて起こる病気なのです。下の図は日本整形外科学会のホームページに掲載されているものです。この病気の状態がとてもわかりやすく描かれているので引用させていただきました。

頚椎症性神経根症

症状は?

この病気は40~50代の壮年に多く、主な症状は首、肩、背中、腕の痛み、しびれです。首を傾げたり、顔を上に向ける動作で痛みやしびれが強くなったりもします。腕を普通に下げていると痛みが強くなるため、反対の手で痛む側の腕を支えたり、痛む側の腕を上に挙げたままにする姿勢もこの病気の特徴の一つです。また、肩や腕の力が弱くなるなどの運動麻痺もあります。

診断は?

診断は上に述べた特徴的症状に加え、首のレントゲン写真、MRI、CTなどの画像検査によって行われます。頚椎椎間板ヘルニアも頚椎症性神経根症にとてもよく似た症状を出す病気ですが、その場合、ヘルニアの出っ張りが中央よりも片側に偏ったために神経根が押されてしまいます。椎間板ヘルニアでは頚椎症に比べ、症状の出方が急激なことが多いと言えます。

治療は?

治療法ですが、この病気になった人のほとんどは消炎鎮痛剤の内服や安静にしていることでいつの間にか痛みが消えてしまいます。しかし、中には夜も眠れないほどの強い痛みがいつまでも続き、精神的にも参ってしまう人や、痛い側の腕や肩に力がほとんど入らなくなる人もいます。このような患者さんには手術も必要になることがあります。

どんな手術があるの?

大きく分けて、首の前から行う前方除圧術と、後ろからの後方除圧術の二つがあります。通常、前方除圧術は椎骨を前から奥に向かって削り、神経を押している骨や椎間板の出っ張りを切除します。そのあと、骨を削ってできた椎骨の隙間に自分の骨、人工骨、あるいは金属製のスペーサーなどを挟み、それを金属のプレートとネジで抑え込みます。一方、後方除圧術は狭くなった椎間孔(神経根のトンネル)の屋根を削り取ることで圧迫された神経根を開放します。

私は後方除圧術を選びます。理由は、頚椎の前方除圧固定術では手術後の処置、つまり後療法が煩雑だからです。たとえば、首の前方固定術後1-2日の間は、首の痛み、腫れ、あるいは痰づまりなどで呼吸が困難になる恐れがあるため、その間、患者さんは集中治療室で管理されます。また、前方除圧固定術は、椎骨同士が、その隙間に入れた骨を介して互いにくっつき、一つの骨の塊になるまで治療が終了しません。その期間は大体4から6週間です。それまでの間、あまり首を大きく動かすと金属のプレートやネジがゆるんだり、外れたりする心配があるので、通常は首にカラーなどの装具をつけて首の動きを制限します。さらに、もし私自身が患者であれば、自分のノドの奥、つまり気管や食道の裏側に人体にとって異物となる金属のプレートやネジが常に接していることを想像すると、ちょっと気持ち悪い気がします。病態によっては前方固定をしなくてはならない症例が確かにあります。しかし、実際、ゆるんだ金属の当てものによって食道や気管が損傷されたという報告も見られます。一方、頚椎の後方から行う除圧術にはこのような問題が起きにくいと言えます。

筋肉を傷めない頚椎椎間孔拡大術とは?

私の行う除圧術は筋肉の損傷がほとんどなく、手術の翌朝から首の固定装具などは一切つけずに立ったり歩いたりできます。前方固定術と比べ後療法が非常に簡単で患者さんも楽です。退院や職場復帰も超早期に実現します。

私の考案した筋肉を損傷しない頚椎椎間孔拡大術を紹介します。

最大の特長は、目標にする骨の部分に到達する経路が隣り合った筋肉と筋肉の間を広げてできた隙間なので、筋肉自体は損傷されない、ということです。この隙間は手術が終われば健康な筋肉によって即座に閉じられます。

図1は頚椎を後ろから見たイラストです。図1Aの赤の点線で示した筋肉の間を広げれば、図1Bのように筋肉自体を損傷せずに目的とする骨の部分に到達できます。

図1頚椎後方の筋肉と手術経路

図2Aの赤の点線部分は隣り合った筋肉の間を拡大したイラストです。図2Bは手術中の写真で、白の点線がイラストの赤の点線と同じ部分です。

図2筋肉と筋肉の間から入る手術の経路

図3ABはこの点線部分を奥に向かって広げて目的とする骨の部分に到達したところです。

図3筋肉と筋肉の間を広げて左椎間孔の後方に到達

図4ABは椎間孔の屋根を削り取って圧迫された神経根を開放したところです。

図4左椎間孔の屋根を削り取って圧迫されていた神経を解放

図5は手術前後のCT画像です。図5Aの赤丸の中は頚椎症によって狭くなった神経根の通路、つまり椎間孔です。図5Bの赤丸の中は手術によって十分に広くなった椎間孔です。

図5椎間孔拡大術前後のCT

図6の赤丸部分は手術した部分の筋肉です。この部分で筋肉と筋肉の間を広げましたが、筋肉自体に損傷が全くないので、手術をしていない反対側の筋肉と区別がつきません。このことは、別の記事「私が脊椎内視鏡手術を選ばない理由」の中でも詳しく説明されています。是非参照してみてください。

図6頚椎椎間孔拡大術後3ヶ月のMRI

また、われわれの脊椎チームは、この手術を受けて2年以上経過した頚椎症性神経根症の患者さんを調査しました。その調査の中で、手術した部分の筋肉の断面積を手術前と後のMRIを使って計測しました。結果は、手術後の筋肉の断面積は手術前と全く変わっていなかったことがわかりました。つまり、手術による筋肉の損傷がゼロであったということです。この研究の詳細は2015年発行の日本脊椎脊髄病学会誌第6巻1123-1126ページに掲載されています。この病気には、われわれの手術法が体への負担がもっとも少ないということを証明する論文です。

筋萎縮ゼロ青山論文