頚椎症性脊髄症

KEITSUISHOUSEISEKIZUISHOU

頚椎症性脊髄症とは、どんな病気?

頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)とは中高年の人に多い首の病気です。この病気の説明には、まず頚椎症とは何か、脊髄症とは何かを理解していただく必要があります。

まず頚椎症ですが、これは、頭を支えたり動かしたりする負担が首の骨(頚椎)にかかり続けることで起こる一連の変化です。下のイラストを参考にしながらお読みください。この変化はまず、背骨の一つ一つの骨(椎骨)をつなげ、その間に挟まってクッションの役目をする椎間板に現れます。椎間板が摩耗して水気を失いつぶれてしまう状態(これを椎間板変性という)になるのです。椎間板が変性してつぶれると、椎骨のへりに餃子の羽根、あるいは鳥のくちばしのような骨の出っ張り(骨棘:こつきょく)が現れてきます。さらに、複数の首の椎間板に厚みがなくなると、首が縮むため、首の骨をつなぐ後ろがわの靭帯(黄色靭帯)も縮んで厚ぼったくなり(肥厚:ひこう)、ふくらみます。このような変化のことを総じて頚椎症と言います。頚椎症によるこれらの変化はすべて神経の本幹である脊髄(せきずい)が通るトンネル、つまり脊柱管(せきちゅうかん)を狭くします。

頚椎症性脊髄症とは、上に述べた経年変化(頚椎症)によって、出っ張ったりふくらんだりした骨、椎間板、靭帯によって脊髄が挟み付けられておこる病気なのです。下の図は日本整形外科学会のホームページに掲載されているイラストで、首の骨を左真横からみたものです。この病気の状態がとてもわかりやすく描かれているので引用させていただきました。

白石脊椎クリニック患者の頚椎症性脊髄症画像

日本人をはじめ東南アジア人種は、欧米人に比べると首の脊柱管が生まれつき狭い人が多いので、さらにこの病気になる人が多いと言えます。

症状は?

頚椎症性脊髄症は中高年に多く、主な症状は両手足の感覚の麻痺や運動の麻痺です。感覚の麻痺とは、手足のしびれや指で触った感覚が鈍くなる症状です。手の運動麻痺とは、ボタンのとめはずしや箸使いが不器用になったり、字がうまく書けなくなったりする症状です。足の運動麻痺は、歩くと躓きやすい、足がもつれる、階段の上り下りに手すりが必要になる、などの症状です。また、しばらく上や下を向き続けていると両手両腕がしびれてくることもあります。症状が重くなると、トイレがまめになる、おしっこの勢いが弱くなって時間がかかる、我慢がきかなくなるといった排尿障害も合わせて自覚するようになります。比較的若い患者さんであれば症状が軽いうちに自覚できますが、ご高齢の方では気付くのが遅れがちで、いつの間にか病気がかなり進んだ状態になっていることも少なくありません。また、転倒した衝撃で脊髄損傷(せきずいそんしょう)をおこし、手足がほとんど動かなくなることもあります。私の経験では、この病気で足がもつれて転びやすくなり、転ぶたびに症状が重くなっていった患者さんが少なくありませんでした。

頚椎症性脊髄症の診断は?

診断は上に述べた特徴的症状に加え、診察による神経学的所見、首のレントゲン写真、MRI、CTなどの画像検査によって行われます。頚椎症性脊髄症とよく似た症状の病気には頚椎後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)、頚椎椎間板ヘルニア、頚髄の腫瘍などがあります。これらは、病気によって治療法が異なるので正確な診断が必要です。また、神経内科の病気にも頚椎症性脊髄症ととてもよく似た症状の病気があります。これは、脊髄が圧迫されなくても発症する脊髄自体の病気です。さらに、頚椎症性脊髄症と神経内科の病気が重なることもあります。私は、少しでも神経内科の病気が疑わしいと感じた時は、常に神経内科専門医に相談するようにしております。繰り返しますが、正確な診断なくして正しい治療はあり得ません。

治療は?

病気の初期では症状が軽いので、定期的に脊椎専門医の経過観察を受けるようにしておけばよいでしょう。ただし、頭や首に衝撃を受けやすいスポーツは脊髄損傷の原因になるのでやめるべきです。一般的には、症状が着実に悪化しつつあり、日常生活動作が満足にできなくなれば圧迫された脊髄を開放する手術(脊髄除圧術:せきずいじょあつじゅつ)がすすめられます。しかし、私の経験では症状があまり悪化してしまうと、手術をしてもその効果が得られにくく、結局、将来の悪化を予防するだけの手術に終わってしまうことになります。反対に、症状が出たばかりの状態でむやみに早く手術をすることもすすめられません。実際、私のセカンドオピニオンクリニックには、頑固な肩こりや首の痛みだけの症状なのに、「放っておくと将来寝たきりになるよ」などと、居丈高な医師に脅され、詳しい説明もされないまま手術の選択を迫られた患者さんも少なくありません。頚椎症性脊髄症の手術のタイミングは、年齢と職業、発症の時期、外傷の有無、症状の程度、画像所見など、個々の患者さんの状態に即した総合的判断によらなければならないのです。その決定は、「手術はうまく行ったからもう診る必要はない」というのではなく、一人一人の患者さんと真摯に向き合い、ともに悩み、喜び、長期にわたって術後の経過を見届けようとする医師によってなされるべきものと私は考えております。

どんな手術があるの?

頚椎症性脊髄症の手術は、大きく分けて、首の前から行う前方除圧術と、後ろからの後方除圧術の二つがあります。通常、前方除圧術では固定術も合わせて行われます。この方法は、椎骨を前から奥に向かって削り、神経を押している骨や椎間板の出っ張りを切除します。そのあと、削られてできた椎骨の隙間に自分の骨、人工骨、あるいは金属製のスペーサーなどを設置し、それを金属のプレートとネジで抑え込みます。一方、後方除圧術は狭くなった脊柱管(脊髄の通るトンネル)の屋根を広げる、あるいは削り取ることで圧迫された脊髄を後ろから開放します。

私はできるだけ後方除圧術を選びます。理由は、頚椎の前方除圧固定術では手術後の処置、つまり後療法が煩雑だからです。たとえば、首の前方除圧固定術後は、傷の痛みや腫れによって呼吸や咳払いが少ししにくくなります。特にご高齢の患者さんでは痰が詰まって窒息する恐れがあるため、手術後1-2日の間は厳重な注意が必要です。また、前方除圧固定術は、椎骨同士がくっついて一つの骨の塊になるまで治療が終了しません。それに要する期間は順調に経過しても4~6週間くらいはかかります。それまでの間、あまり首を大きく動かすと金属のプレートやネジがゆるんだり外れたりする心配があるので、通常は首にカラーなどの装具をつけて首の動きを制限します。

病態によっては前方固定をしなくてはならない症例が確かにあります。たとえば、頚椎すべり症といって、隣り合った上下の椎骨同士がぐらぐらしている例がそれに当たります。しかし、もし私自身が患者であれば、自分のノドの奥、つまり気管や食道の裏側に人体にとって異物となる金属のプレートやネジが常に接していることを想像すると、ちょっと心配です。実際、ゆるんだ金属の当てものによって食道や気管が損傷されたという報告も見られます。一方、頚椎の後方から行う除圧術にはこのような問題が起きにくいと言えます。特に筋肉の間を広げる私の手術法では、出血が少なく術後の痛みが非常に軽いため、超早期退院・職場復帰が実現されます。詳細は、このホームページに記載された私の経歴や「症例・患者さんの声」などの項をご覧ください。