インタビュー

interview

雑誌編集の仕事をされているUさん 66歳男性

カラダを動かすことが好きだ。2013年12月。走力を高めようと、骨盤の前傾を心がけながら走っていたら、仙骨のあたりがぴりり! なんだこれ? 左太腿の裏側やふくらはぎが痺れてきた。2日、3日もすると間欠性歩行障害があらわれ、職場に行くにも20mおきにガードレールなどにへたり込まないと前に進めない。クリスマスも年末も出かけることができないし、さすがにこれはまずい。

どうやらこれは腰部脊柱管狭窄症。専門病院を訪ねると、まさにその通り。加齢や運動のし過ぎで、第4腰椎と第5腰椎の隙間が狭くなり、そこを通っている神経を圧迫し、痺れ痛みがその神経の担当する下肢の部分にあらわれた、と。なるほど。

担当医いわく、改善する方法はふたつ。ひとつ目は、潰れた第4と第5腰椎の隙間を元通りに広げ、根本的に神経の圧迫を取り除く方法。クルマをジャッキアップするようなもので金属のプレートやボルトなどを挿入して、それはそれは大きな手術になる。ふたつ目は、内視鏡を使い、神経を圧迫している組織だけを削りとって、通っている神経の周囲に隙間を作る手術。隙間を設けてやれば神経への圧迫はなくなる、ジャッキアップに比べればカラダへの負担は少ないとおっしゃった。

どっちにしろ簡単な手術ではないらしいが、後者を選んだのはカラダへの負担が少ないこと、手術がうまくいけば痛みは消える(はず)、元通り元気よく運動できるようになる(はず)。もし痛みが消えず、歩けないとしても、次の選択肢としてジャッキアップ手術が残っているからだ。

検査などに時間がかかり手術が行われたのは翌2014年の3月。実際は神経を圧迫している部分が予測以上に広範囲にわたっていて、担当医の他、名人と言われる院長先生のふたりがかりの大手術であった。手術の翌朝。担当医は、時間はかかったけど手術は成功しましたと、ガラス瓶に入った削り取った組織を見せてくれた。お茶漬け鮭のフレークみたいだった。確かに脚の痺れはどこにもない。よかったあ。

立ち上がってトイレに行けるようになり、ニコニコ笑顔で歩き回っていたら、あれれ。また、脚に痺れがきたぞ、痛いぞ。担当医に話すと、それはよくあることで、手術した内部はまだ出血が止まらず、削った個所は広範囲だったし、その溜まった血液が神経を圧迫しているからでしょう、しばらくすれば痛みは消えます。と。

ところが痺れ痛みは消えない、それどころか手術前より増している。手術前より歩けない。これじゃあ電車にも乗れない。退院当日はタクシーで家に帰った。家でも寝たきり、行動半径5mが限界だ。廊下の先、玄関ドア内側に落ちた朝刊を取りに行くのが精一杯。出血が止まり、溜まった血液が吸収されるのはどのくらい日数がかかるのだろう? それにしても手術前は電車にも乗れたし、間欠ながら歩けたのに。

実は手術は失敗したのではないか? このまま一生行動半径5mなのでは? 二度と外を歩くことはできないのでは? ネガティブな体調はネガティブな考えを増長させてゆく。

そんな身も心も最低なときに、日本一精密なMRI検査と白石先生の存在を知った。こうなったらセカンドオピニオンだ、いったいこの腰はどうなってしまったんだ? よく調べてもらおう。

MRI画像をじーっと見て白石先生は、ズバリ、はっきり言った。「腰の骨が折れています、骨折です、これでは痛いはずです」

えええ! 折れている? 腰椎骨折?。愕然、目の前真っ暗、たぶん、そうとうがっかりした顔をしていたと思う。

次に言った先生の言葉が忘れられない。「でも大丈夫です。ほっといて平気です、折れた骨は自然にくっつきますから。しばらくすれば痛みは消えます」と。「折れた骨が動いて神経に触れるんです、だから痛い。骨がくっついて動かなくなれば、神経は触れませんから痛みは消えます」「再手術の必要はありません」。

ひと言ひと言が不安を取り除いてゆく、説明を聞いているだけで痛みが少なくなってきた気がする。いやいや治った気がしてきた。そうか、このままでいいんだ、ほっとけば治るんだ。いきなり元気になってきた。

白石先生は何もしていない。聴診器ひとつ胸にあてていないし、注射1本打っていない。MR画像を丁寧に分析し、正しい答えを言っただけだ。それだけで、ひとりの人間を日当たりのいい場所に連れ戻してくれた、豊かにしてくれた。

「少しなら運動しても大丈夫ですよ」そんなことまで言ってくれた。調子に乗って1ヶ月後に走り出した。半年後には東京マラソンを4時間で完走した。舗装路では飽き足らず、山道を走るようになった。この2016年、5月から6月にかけて毎週末にトレイルラニングのレースに出場した、20km~30kmの距離の山道を毎週末走っても腰はびくともしない。この夏、欧州大陸最高峰モンブランの麓を巡る55kmのトレランレースに出場する。

いまになって思えば、3月の手術は成功していたとも言える。名医ふたりがかりで、神経との隙間を広げようと組織と骨を削り取ったのはいいけど、削りすぎて骨が薄くなってしまった。術後に立って歩いたために、力が加わって、その骨が折れたのだろう、と、そう思う。

正直に言うと、脚の痺れや痛みは100%完全に治ってはいない。20分以上微動だにせず立ち続けていると、下肢に痺れ痛みがやってくる。だから満員電車は苦手だ。ところが不思議なもので、走り出すとまったく痛みも痺れも起きない。6時間も8時間も山道を走り続けても大丈夫。つまり、じっとしていたらいけない、カラダを動かせ、ということ。