インタビュー

interview

第1第2頚椎亜脱臼の23歳プロスポーツ選手 手術から7か月後の経過

K選手の手術についての解説の記事はこちら (この記事の前にお読みください)

K選手が私の手術を受けて約7か月が経過しました。
3月7日の画像では環軸椎は正常の位置で互いにしっかりと固定されていることがわかります。

図7は首の骨を左真横から見たCTが像です。赤丸の中には環椎と軸椎の関節を貫通させたスクリューが写っていますが、その周囲には術後7カ月以上たった今も隙間ができておらず、このスクリューが環椎と軸椎の骨と完全に密着していることがわかります。

白石脊椎クリニック患者のCT画像01

図8は首の骨を左真横から見たCT画像です。赤丸の中には環椎と軸椎の後方で、この二つの骨の間に設置された人工骨が見えます。この人工骨の表面が自分の骨でおおわれて、環椎と軸椎の二つの骨に生着しています。これは、環軸椎が自分の骨によって互いに固定されたことを示しています。

白石脊椎クリニック患者のCT画像02

図9は首の骨を左斜め後ろから見た3DCT画像です。赤丸の中には左の環椎と軸椎の関節(椎間関節)が写っています。術後3か月の左の3DCTでは関節に隙間が見え、骨同士がまだくっついていない状態ですが、術後7か月の右の写真では関節の隙間がなくなっていて、骨同士がくっついている状態であるごとが分かります。

白石脊椎クリニック患者の3DCT画像01

このように環椎と軸椎が互いにひとかたまりの骨として固定されたので、手術の目的は果たせました。そこで、この日からいよいよ、首の動く範囲を大きくすること、および首や手足の筋肉を強くすることを目的としたトレーニングから始めてもらうことにしました。これからもK選手のその後の様子をこのページでお伝えしてまいります。ご期待ください。


 

この手術には前回も述べたように、移植した骨が生着しやすいという大きな利点があります。骨の栄養は、その骨に付着する筋肉から流入する血液によって供給されます。この選手の手術では筋肉を首の骨から全く剥がさなかったため、筋肉から環椎と軸椎に流入する血液は減少することなく豊富に保たれていました。その結果、環椎と軸椎の間に設置した人工骨を介して二つの骨を早期に生着させることができたのです。筋肉をすべて骨からはがす従来の方法で環軸椎を固定する場合、骨への血流は減少するため、患者さん本人の骨(自家骨)を骨盤から相当量採取して移植しなければなりません。自家骨がもっとも生着しやすいからです。しかし、K選手がプロのアスリートである以上、私は自家骨を骨盤から採取することによって、骨盤の筋肉や骨に余分な傷をつけるようなことはしたくなかったのです。

この高難度手術が成功したのは、もともと誰にでもある筋肉と筋肉の間の隙間を広げれば、筋肉を骨から剥がさずに手術ができるということを発見したからです。

図10は環椎と軸椎を後ろから手術している時に撮影した写真(右)です。左はそれをイラスト(赤の四角の中)にしたものです。青線は首(体)の真ん中を示します。前回の図4の筋肉の名前を参照してください。軸椎の後ろの部分(椎弓:ついきゅう)は下頭斜筋と頚半棘筋の間にある隙間を広げるだけで、露出します。筋肉をはがしたり傷つけたりする必要はないのです。

白石脊椎クリニック患者の術式説明画像

軸椎は7つの首の骨の中で最大です。またその後ろに着く筋肉の数も最多で、頭から左右4つ、首の下の方から左右6つ、合計10の筋肉が付着します。ですから、軸椎は頭や首の運動と姿勢保持を行ううえで扇の要のような役目を果たします。この筋肉を剥がさずに軸椎の後ろに到達(進入あるいはアプローチ)する方法は、それ以前の頚椎外科の歴史にはありませんでした。この進入法によって、プロスポーツ選手の首の筋肉に傷を全くつけずに、しかも、自家骨を骨盤などから採取することもなく、人工骨だけの移植で環軸椎を固定することができたのです。

この手術法は一般の患者さんの環軸椎亜脱臼にも多数行ってまいりましたが、この選手と同様、手術の後は超早期から首の装具なしで自由に歩きまわることができ、すべての患者さんの環椎軸椎は固定されています。