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東京オリンピック2020

今回のオリンピックでとてもうれしいことがありました。
私の患者さんだった隣国の柔道選手が銅メダルに輝いたことです。
彼は世界トップクラスの選手で、オリンピックではライバルの日本選手と金メダル争いになること必至と注目されていました。

ところが去年の7月、練習中に首に強い痛みが走ってから左腕と手に力が入らなくなりました。
腕立て伏せも満足にできず、ダンベルも今までの半分以下の重さしか持ち上げられないほどの麻痺のため、
本人もトレーナーやコーチもオリンピック参加の夢は消えてしまうのではないかと途方に暮れていました。

なにしろオリンピックの1年前ですから、周囲からは「早期復帰には早く手術するしかない」とか、
それとは全く反対に「手術をすれば選手生命は終わってしまう」などの、さまざまな意見が出ていたに違いありません。
オリンピックに間に合うためにはぎりぎりの選択を迫られ、最後にセカンドオピニオンとして私のクリニックを訪れました。

首のMRIでは椎間板が突出して神経を圧迫していました。
手術で椎間板を切除して神経の圧迫を解除すれば、回復も早いのですが、金属を入れて首の骨を固定する必要があります。
一般の中高年であればこれで問題はないのですが、彼はまだ若く、世界レベルのアスリートです。
しかも、オリンピック後も長く続く彼の選手生命を考えると、首の骨を固定したことによる負の影響も無視できません。

私はライフワークである頚椎疾患の治療経験から、これ以上悪化すれば手術もやむを得ないが、発症からまだ2週間で手術を決めるのは早すぎる。
もし、この1-2週間でわずかでも筋力に回復の兆しがあれば、手術しなくても充分に回復する可能性が高い、と判断し、本人にもそのことを伝えて帰しました。

それから約10日ほどして本人に電話で様子を尋ねたところ、左腕の筋力が改善しているということでした。
私は、回復の兆しが早く現れたことから、回復のスピードも速いと確信して電話を切りました。
致命的とも思われた麻痺を克服してオリンピックのメダリストになるまでには、本人も周囲の関係者も、一般人には想像のできないような努力を重ねたはずです。
今回の快挙に心からおめでとうと伝えたいです。

また、8月24日からパラリンピックが始まりますが、日本がこの大会に初めて参加した当初から、多くの整形外科医の尽力があったことをお伝えしたいと思います。