院長コラム
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私が脊椎内視鏡手術を選ばない理由
脊椎内視鏡手術には本来の内視鏡の利点が生かされていません
そもそも内視鏡手術というものは、病気の部分が胃や腸のような管の中にある場合、または、それがおなかや関節のような空洞の中にある場合にその利点が発揮されます。
胃のポリープ切除であれば、ファイバースコープを口や鼻から挿入すれば病気の部分に到達します。
胃は食べ物をいれる袋でその中は空洞になっていますから、ポリープを切り取る作業もその空洞の中で安全に行えます。
外科の胆のう切除や整形外科の膝関節半月板切除であれば、おなかや膝の皮膚を小さく切開して、そこから内視鏡を入れれば、それ以外の組織を一切傷つけることなく病気の部分に到達できます。
同時に、お腹や関節の空洞そのものが安全な手術をするための作業場となるのです。
下の図は内視鏡(腹腔鏡:ふくくうきょう)を使った胆のう手術のイラストです。
炭酸ガスをおなかの中に注入してふくらませ、広い空間で安全に手術が行われるようにします。
内視鏡が登場する以前の手術では、おなかや関節を大きく開けなくてはなりませんでしたから、内視鏡によって、手術による体への負担が格段に少なくなった(低侵襲:ていしんしゅう)ということは誰でもうなずけると思います。
一方、脊椎はどうでしょうか。
胸椎と腰椎の前の方は胸やおなかの空洞にほぼ接していますが、脊椎の後ろ側は頚椎、胸椎、腰椎すべてが強い筋肉や靭帯などで隙間なくびっしりとおおわれています。
また、おなかや関節の内視鏡手術では、手術をする部分のまわりには作業場として利用できる空洞が広がっていますが、脊椎の後ろ側には空洞など全くありません。
つまり、脊椎内視鏡手術では、脊椎の病気の部分にたどり着くために、また手術が行える作業場を作るために、内視鏡の通り道である皮膚から脊椎までの間に介在する靭帯や筋肉を切り取ったり裂いたりしなければならないのです。
言い換えれば、脊椎内視鏡手術ではこれらの健康な組織を損傷しながら手術をしているのです。
内視鏡だからすべてが低侵襲であるとは言えないのです。
このことを、脊椎内視鏡手術を行う医師がきちんと説明しているのか、手術を受ける患者さんやご家族がどれくらい理解しているのか、私にははなはだ疑問に思えてなりません。
内視鏡ではなく顕微鏡を使って脊椎低侵襲手術を実現しています
私が提唱する筋肉を温存する手術法では、筋肉と筋肉の間を顕微鏡を使って丁寧に広げながら脊椎に到達するため、筋肉自体を傷つけることなく手術を行えます。
私はこの方法が、現在行われている脊椎手術においてもっとも低侵襲の技術だと考えております。
内視鏡手術では筋肉と筋肉の間を目で見て確かめることはしません。
皮膚の上から脊椎に向かってまっすぐに内視鏡を挿入します。
このため、内視鏡の通り道にびっしりと詰まっている筋肉そのものを裂いたり切除したりして脊椎の病気の部分に到達します。
内視鏡を使った手術が必ずしも低侵襲ではないということが理解しやすい実例だと思います。
これまでに、内視鏡術後に私のセカンドオピニオンを求めて来院された患者さんはかなりの数に上ります。
次回から、そのなかでも典型的な症例を提示して検討を加えたいと思います。