院長コラム
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首の骨のカーブ あるべき自然な形 その3
ここでは、私が独自に開発した筋肉を切らずに行う頚椎後方手術について解説します。
現在私が頸椎症性脊髄症、頚椎脊柱管狭窄症あるいは頚椎後縦靭帯骨化症に対して行っている頚椎後方除圧術は首の運動や姿勢を保持する筋肉や関節包にダメージを与えない手術法です。
その鍵を握るのは、アプローチの方法です。
後方除圧術では脊髄を後ろから圧迫している首の骨の後ろの部分(椎弓:ついきゅう)を削って脊髄の圧迫を解除します。
アプローチとは手術の目標となるこの椎弓を出す、つまり見えるようにすることです。
この手術の利点
1 首の後ろ側の筋肉や靭帯(関節包)のダメージが最小限に抑えられます。
2 脊髄を圧迫している骨や靭帯の切除を最小限にとどめます。
すなわち手術による首への損傷を最小限に抑えながら最大の効果が得られる手術です。
この利点によって首の自然なカーブは保たれ、痛みを伴わずに首を動かし姿勢を保持することができます。
図1をご覧ください。これは私が開発したアプローチの一つで、椎弓と靭帯を真ん中から出す方法です。
隣り合った筋肉と筋肉の間には誰にでもすき間があります。
このすき間を、筋肉を傷つけることなく丁寧に広げれば目標とする椎弓と靭帯が出ます。
筋肉を割いたり骨から剥がしたりしてすき間を開けるのではありません。
筋肉は骨に付いたまま無傷で温存されます。
右の写真は手術中に撮影したものですが、左のイラストと対比してご覧になればわかるように、やや黄色い靭帯(*)と骨(椎弓)がよく見えます。
図2をご覧ください。この靭帯と椎弓はMR画像の矢印の部分が示すように脊髄を後ろから圧迫しています。
脊髄を圧迫から解除するには、この靭帯と椎弓を切除したり削ったりすればよいのです。
左のイラストは脊髄を圧迫している椎弓と靭帯を出したところです。
右イラストはこの靭帯と椎弓の上の部分を切除したところです。このようにすれば、首を動かし姿勢を保つ筋肉と関節包を傷つけずに脊髄の圧迫を解除することができます。
私はこの方法を「筋肉温存型頚椎椎弓間除圧術」と名付けて2002年に医学雑誌Journal of Neurosurgeryに発表しました。
一方、現在行われている手術ではどうでしょうか。
図3の左の写真は手術中に正常な首の後ろの筋肉を撮影したものです。
この筋肉の下に首の後ろの骨、つまり椎弓があります。
現在行われている手術ではこの筋肉も関節包もすべて椎弓から剥がされます。
図3中央のイラストは国際頚椎学会の周術指導書から引用しています。イラストの右は手術中の写真で、この指導書に従って頚椎の後ろの骨(椎弓)を出したところです。
黄色の線の内側が椎弓ですが、椎弓は筋肉や関節包がすべて剥がされた状態で露出しています。
このように、首を動かし姿勢を保持する筋肉や関節包が損傷されると、様々な問題が起こることはこのコラムのその1、その2ですでに説明したとおりです。