院長コラム

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脊柱管狭窄症に金属を使った固定手術は必要ですか? という質問について

私のセカンドオピニオン外来で最も多い相談は、
「脊柱管狭窄症と診断され、今かかっている病院の先生から背骨を金属で固定する手術を勧められましたが、本当に金属を入れる必要があるのでしょうか」
というものです。

確かに、背骨の病気の中には金属を使って固定しなければ治療できない病気もあります。
しかし、それを必要とする患者さんは全体のなかではむしろ非常に少ないのです。
手術を必要とする病気で圧倒的に多いのが脊柱管狭窄症です。
そして、実際、相談に訪れた患者さんを診察すると、そのほとんどが金属を必要としないケースということがわかります。
それにもかかわらずこのような相談があとをたたないことにはどのような背景があるのでしょうか。

それを説明する前に、人体にとって異物となる金属を体の中に入れる手術にはいくつかの欠点があることを知っていただく必要があります。

欠点その1

背骨の固定には金属のネジ(ボルト)などを使います。
神経の本幹がすぐそばを通る背骨に、神経を傷つけずに金属を入れること自体、手術が難しく、時間もかかります。
つまり、合併症が起こりやすい手術ということになるのです。

欠点その2

ボルトはよほど入念に入れないと、骨の強度が弱い高齢の患者さんでは緩んだり抜けてしまったりすることがあります。
骨から抜けた金属が神経を圧迫したり傷つけたりすると強い痛みや麻痺がおこります。
さらに、首では神経の障害による手足の麻痺だけでなく、気管、食道といった臓器にも障害が及ぶことが懸念されます。
そして、こういった場合には手術をやり直す必要があります。
金属を使った固定術がうまくいかず、何度も手術を受け直さなければならなかった不幸なケースもこれまで少なからず報告されています。

欠点その3

金属を骨の中に入れる手術ではそうでない手術に比べ、傷の中に感染がおこるリスクが高くなります。
傷の中が感染すると傷がなかなか閉じなかったり、腫れや強い痛みが出現したりして、治療が長期化します。
感染症状が神経組織に及べば手足の麻痺や排泄の障害が起きたりします。
さらに全身に広がれば菌血症という生命にかかわる危険な状態になりますから、感染を収めるためにせっかく入れた金属を取り除かなければならない、といった結果にもなりかねません。

では、金属で背骨を固定する手術を勧められるケースが後を絶たないのはなぜなのでしょうか。
それは、脊柱管狭窄症に対して従来から行われている手術の方法に問題があるからです。
首の脊柱管狭窄症では、脊柱管拡大術と言って、神経の本幹(脊髄:せきずい)が通る通路の後ろ側の骨(椎弓:ついきゅう)を、ふたを開くように広げます。
その際に骨についている筋肉や靭帯といった首を動かし、姿勢を保つ組織(頚椎の支持組織:しじそしき)をことごとく首から切り離します。
これによって首が曲がり、変形(後弯変形:こうわんへんけい)がおこりやすくなります。

詳細は私のコラム:首の骨のカーブ あるべき自然な形 その1、その2、その3:で解説してありますので、参考にしてみてください。

首の骨のカーブ あるべき自然な形 その1
首の骨のカーブ あるべき自然な形 その2
首の骨のカーブ あるべき自然な形 その3

頚椎脊柱管狭窄症の手術に金属を使うというのは、このように手術後の変形を防ぐことが目的なのです。
また、これ以外にも、最近では開いた椎弓が閉じたり折れたりするのを防ぐために、セラミックスや小さめの金属が使われることが非常に多くなっています。
こちらも、緩んだり外れたりしますし、感染のリスクを高めるという欠点は同じです。
脊柱管狭窄症の手術に対して筋肉や靭帯などの背骨の支持組織を骨から切り離さずに行う手術であれば、金属材料を一切使わずに手術の目的が達成されるのです。